翻訳テクノロジーあれこれ

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主な翻訳支援ツールの特徴

BABEL eトランス・テクノロジー研究室から翻訳に役に立つテクノロジーの情報をお届けします。
第5回は「主な翻訳支援ツールの特徴」です。

さて、今回から翻訳支援ツール(CATツール)を取り上げて活用方法を取り上げていきたいと思います。
その前に、CATツールの背景を簡単に振り返ってみましょう。

1980年代に入ると、機械可読テキストデータが増大してきました。その中には翻訳による対訳ファイルもあり、翻訳資産として貴重なデータであることが次第に認識されてきました。
やがて、このような対訳ファイルを「翻訳メモリ」や「用語ベース」として活用する技術が登場しました。
1980年代から1990年代にかけてパソコンが普及するに従い、誕生したのが、市販の翻訳支援ツール(CATツール)です。CATツールといえば誰でも思い浮かべるのがTradosでしょう。そのTrados社が設立されたのは1984年で、1991年にはSTAR社がTransitを、1992年にはIBMがTranslation Manager/2を発表すると1990年代後半から2000年代前半にかけて数多くのCATツールが登場しました。
この時代のCATツールメーカーの広告は、「プロの翻訳者はCATツールを使い、アマチュア機械翻訳を使う」というスタンスで差別化を図っていたものです。
これらのCATツールは改良が加えられ、現在でも翻訳生産で中心的に利用されています。
プロの翻訳者はCATツールを使いこなせるのが当たり前だとは言え、新機能がどんどん追加され、肥大化したツールは十分に使いこなすのが難しくなっています。
最近では全体の機能を分割することによって、それぞれの役割の作業者が使いやすいようにしたツールになる傾向が見られます。

CATツールの基本機能

CATツールには色々な機能が搭載されていますが、どのツールにも共通する基本的な機能を押さえておきましょう。

原文のレイアウトを保持して訳す

最も重要な機能は、原文のレイアウトをそのまま保持して翻訳することです。

翻訳する原文としては一部印刷物もありますが、現在はほとんどが電子ファイルです。
CATツールを使わない場合は、原文ファイルに上書きする形で訳文を入力するのが普通です。WordやPowerPointなら問題ないかもしれませんが、Webページの翻訳ならどうでしょうか?

Webページは、HTML(Hyper Text Markup Language)という形式のファイルで、マークアップ、つまりタグの付いたテキストファイルです。

Webページ(HTMLファイル)を代表的なCATツールのTrados Studioで開くと、翻訳すべき文を抽出して、対訳エディタの原文側に表示してくれます。さらに、文末を自動判定してセンテンス単位にセグメント化しています。この状態で右側のセルに訳文を入力します。これならHTMLのタグを気にする必要はありません。

翻訳が終わって訳文を出力すると、原文のレイアウトが保持されています。

翻訳メモリなどの言語資産を活用できる

翻訳に役立つ言語資産としては、対訳データーベース(翻訳メモリ)や用語ベース、そして最近では機械翻訳(MT)などがありますが、これらを一まとめにして検索し、その結果を簡単なキー操作で取り込むことができます。これがCATツールのもう一つの重要な機能です。

クラウドベース翻訳支援ツールのPhrase TMSの編集画面です。
右側のCATペインにTM(翻訳メモリ)、TB(用語ベース)、MT(機械翻訳)の検索結果が表示されています。
これらの検索結果に利用できそうなものがあれば、簡単なキー操作で訳文セルに挿入できます。
また、翻訳が完了して確定すると、その瞬間に対訳が翻訳メモリに保存されて、次から検索対象となります。
蓄積された翻訳メモリは他のプロジェクトでも利用できるので、何度も同じ翻訳を行う手間が省けます。さらに、完全にマッチしなくても、設定した%でマッチすれば表示するようにできます。この場合、どこが違っているのか差分表示されるので、その部分だけ修正すれば訳文が完成します。統一感のある訳文を作成するためにも便利な機能です。

さらに、用語ベースにマッチしたものがあれば、原文の語句が黄色くマーキングされるので、指定訳語のばらつきを防ぐことができます。
TMもTBも、複数の翻訳者が参加するプロジェクトでは不可欠の機能です。

CATツールの種類

CATツールには、大きく分けて2種類あります。

翻訳者の作業効率を向上させることを優先するもの:
例えば、個人の翻訳者に人気のあるOmegaTは無料で使えますが、機能は十分です。
自分だけの言語資産を蓄積して翻訳作業を効率化すには最適のツールです。

翻訳プロジェクトの管理を容易にするプロジェクトマネージャー向けのもの:

クラウドベースのPhrase TMSは、TMS(Translation Management System)という名前の通り、総合的な翻訳管理システムで、そのなかの1機能としてCAT機能を持った翻訳エディタが組み込まれています。
主な特徴は、翻訳メモリや用語集、原文ファイルをクラウドに置いて、共有しながら翻訳できるという点です。
またワークフロー機能を使えば、工程管理やファイルの受け渡しも楽にできます。
プロジェクトマネージャーにとってありがたいツールと言えるでしょう。

CATツールが変化している

従来は、翻訳メモリが中心のツールでしたが、最近では機械翻訳が急速に進化し、CATツールに組み込んで使うことが多くなっています。さらにOpen AIを組み込むCATツールも出始めています。
下図で示された、Trados StudioのOpenAI Translatorプラグイン機能では、複数の訳文を提示し、訳出のポイントや、それぞれの訳文の違いも示してくれます。これまでの機械翻訳より一歩進んだ使い方になっています。

適切なツールを選ぶ

翻訳する内容、形態によって適切なツールを選ぶ必要があります。
大きなドキュメントを均質な文体で翻訳する、小さなファイルが数百もあるプロジェクトを円滑に管理する、個人で対訳データをコツコツ蓄積して効率化を図るなど、現在は目的に応じて選択肢が多くなり、かえってどのツールを選んだらよいか迷ってしまうかもしれません。

翻訳支援ツールは、プロの翻訳者が使うものだけではありません。
一般企業の社員が、日常業務の中で翻訳をしなければならないこともあるでしょう。
そのような用途に向けたサービスも充実してきています。

以下は、ヤラウクゼンというサービスで、複数の機械翻訳エンジンや、フレーズ集(翻訳メモリ)、用語集の機能があり、チェックアシスタント機能を使えば、訳文の修正が効果的に行えます。
 さて、CATツールについて大まかに理解していただけたでしょうか。
次回はCATツールを使った効率的な翻訳手法を取り上げます。お楽しみに。

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