翻訳テクノロジーあれこれ

翻訳生産性向上について思いつくままに書いています

eトランステクノロジーとは具体的に何か?


<そもそも情報リテラシーとは>

情報リテラシーの要点をまとめると、(1)情報収集、(2)情報整理・加工・分析、(3)情報提示になります。
この項目をざっと見て、翻訳作業と同じことだと思った方もいるのではないでしょうか。

(1)情報収集
翻訳者の仕事では情報収集が大きなウエイトを占めています。
とりわけ「Web検索」は翻訳者にとって最も重要なツールとなっています。
インターネット上の情報は信憑性に問題がないとは言えません。
そのため、情報の真偽を判断する「メディアリテラシー」のスキルも翻訳者には欠かせません。

(2)情報整理・加工・分析
翻訳者にとって収集した情報を整理したり、加工や分析したりすることは翻訳作業全体の工程にとって重要です。
実際の翻訳作業では、原文のワードカウントを行い、どの程度、定型的で繰り返しの多い文書なのか分析し、固有名詞等の調べ物がどの程度必要かを把握し、費用と納期の見積もりを作成するところから始まります。
次に翻訳関連資料から用語集や対訳表現集を作成し、使用するツールに合わせて加工します。
このカテゴリでは、基本的な情報リテラシーと異なり翻訳生産業務そのものを実践するスキルが必要とされるのです。

(3)情報提示
翻訳業務では、納品する訳文そのものが情報提示ということになります。
納品ファイルの標準形式と言えば、MS Wordであり、企業のプレゼン資料やトレーニング資料ではPowerPointが多く使われています。
従って、翻訳者は、少なくともこれらのソフトウェアを十分に使いこなせるスキルを身に付けておく必要があります。

ちなみに、2022年11月に公開されたChatGPTは、いわゆる「Web検索」の概念も大きく変えました。
情報収集のみならず、情報の整理や加工、簡単な分析までしてくれて、指定した形式で出力してくれるという、まさに総合的なツールと言えるでしょう。
まだ、発展途上なので、不備な部分もありますが、今後、急速に改良されていくのはまちがいないでしょう。

さて、このような基本的な情報リテラシーは翻訳者としては当然マスターしているわけですが、現代の高度情報化時代には、これだけでは不十分なのです。
うかうかしていると、いま話題のChatGPTに負かされてしまうかもしれません。

ちなみに、翻訳に関してChatGPTのプロンプトを指定するには、メタ言語の知識が有効です。

メタ言語能力」とは、言語を理解したり認識したりする能力のことです。
これは、言語を使って他の言語について考えたり、議論したり、分析したりする能力を指します。
メタ言語にはいくつかの要素があって、文法ルールや語彙の正確な使用に関する「言語意識」、
自分の言語使用をコントロールして、他人と効果的な意思疎通ができるようにするための「コミュニケーション戦略」、
また、文法や文化的な側面などの「言語学的な要素に対する認識」、
文章を分析し、その構造やスタイル、文脈について洞察を提供する「言語分析」などが挙げられます。
とは言っても、「メタ言語能力」はプロの翻訳者なら誰でも身につけている能力です。
ただし、それを体系的にメタ言語と認識していない人が多いというだけです。
メタ言語を意識的に捉え直すことで、効果的なプロンプトを作ることができ、ChatGPTを十分に活用することができるでしょう。
ChatGPTの活用法については、そのうち詳しく取り上げます。

 

<翻訳支援ツールの重要な役割>

前回も少し触れましたが、翻訳者の作業を効率化するには翻訳支援ツールの使用は避けて通れません。
コンピューターと人間の役割を分担し、それぞれ得意な作業に集中することで無駄な労力を省き、快適な生産環境を整えることができます。
例えば、翻訳のチェックも「QAチェック」を使って第三者の視点で見てもらえます。

翻訳支援ツールも、この数年で大きく変化しています。
最初は、機械翻訳の出力結果があまりにもひどすぎて、翻訳作業に利用できないとして、それに代わって、翻訳メモリと呼ばれる対訳データベースを中心とする翻訳支援ツールが開発され、おもに、ローカライズ翻訳で盛んに利用されるようになりました。
これは現在でも続いています。
しかし、さらに情報爆発が進み、大量・短納期の翻訳を処理するために、色々な工夫がなされるようになってきました。
その中の一つが機械翻訳です。
2016年のニューラル機械翻訳の登場で、格段に品質が良くなり、いまでは自動翻訳とかAI翻訳とか呼ばれることも多くなりました。
従来の翻訳支援ツールが、その機械翻訳と連携して生産性を大いに高めているのです。
今では機械翻訳の出力文を修正する「ポストエディット(後編集)」のテクニックを駆使して飛躍的に生産効率を高めている翻訳者も多くなっています。

<基本的な情報リテラシー+翻訳支援ツールの操作=eトランステクノロジー

さて、バベルでは、このように従来の基本的な情報リテラシーを土台にして、最新の翻訳テクノロジーまで含めた技術を、「eトランステクノロジー」と捉え、翻訳者が身につけておくべきリテラシーであると考えてきました。
翻訳者の養成で大きな実績のあるバベルでは、翻訳力の増強のためのコースだけでなく、eトランステクノロジーを演習する講座を開講し、最新の翻訳テクノロジーに対応できる翻訳者を育てています。https://www.babel-edu.jp/ett-pr/

 

■「翻訳者のための eトランステクノロジー入門」:
翻訳業務に必要な基礎スキルを身につける。

■「eトランステクノロジー活用(OmegaT編)」:
個人で言語資産を活用して翻訳の効率化を図るために、翻訳支援ツールのOmegaTをマスターする。

■「eトランステクノロジー活用(Phrase TMS編)」:
翻訳プロジェクトで活躍するために、翻訳管理システムのPhrase TMSでの翻訳方法を学ぶ。

バベルの翻訳部門であるバベルトランスメディアセンターは、単なる翻訳請負業務に留まらず、常に最新の翻訳テクノロジーを研究し、その知見を実務に応用するとともに、教育部門にもフィードバックしているのです。

今回はここまでです。

次回は、翻訳支援ツールとしての「Word」を取り上げます。お楽しみに。

この記事は動画でもご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=a-yUWz4ByCY&t=7s

================================================
BABEL eトランステクノロジー研究室
https://www.youtube.com/@eTransTechLab